担当医からのメッセージ
網膜色素変性は、網膜の光を感じる細胞に異常が生じる遺伝性の病気で、夜盲、視野狭窄、視力低下を主な症状とします。現時点ではまだ治療法が確定されていませんが、白内障や黄斑浮腫、網膜前膜などを合併する場合があり、合併症を早期発見し治療することで視機能の低下を遅らせることができます。
病気の進行に伴い、変化する視機能に合わせた補助具の紹介や、医療費助成の申請も可能です。将来希望されるかもしれない障害年金の申請には初診日の証明や検査の記録が必要なため、継続した受診が大切となります。
疾患の概要
網膜色素変性は、網膜の光を感じる細胞に進行性の変性がみられる遺伝性の疾患です。世界中で約1万人に1人、日本では、10万人に対し18.7人の患者がいると推定されています。日本では、緑内障に次いで、失明原因の第2位です。
Ryo Matoba, et al. A nationwide survey of newly certified visually impaired individuals in Japan for the fiscal year 2019: impact of the revision of criteria for visual impairment certification. Jpn J Ophthalmol. 2023; 67: 346-352
網膜の光を感じる細胞には、錐体(すいたい)細胞と杆体(かんたい)細胞の2種類があります。錐体細胞は網膜中心部の黄斑(おうはん)に多く存在し、視力や色覚を担う働きがあります。杆体細胞は網膜の周辺部に多く分布し、周辺の視野や暗い中で光を感じる働きをします。
網膜色素変性では、杆体細胞から障害されることが多いため、夜盲が最初に現れ、進行すると周辺の視野がせまくなり、ものにぶつかりやすくなったり、ものが見えたり消えたりするという症状が出てきます。さらに病気が進行すると錐体細胞も障害され、視力低下を自覚するようになります。
病気の進行はとても緩やかで、数年あるいは数十年をかけて進行します。病状の進行速度には個人差がみられ、症状の起こる順序にも個人差があります。
症状
① 夜盲
夜間や暗所で見にくさを自覚したり、暗い所に入った時に人より慣れるのに時間がかかる(暗順応の遅延)などで、最初に現れる症状の1つです。病気の経過とともに進行します。
② 視野狭窄
中間から周辺部の視野が欠損し見えない部分がでてきます。病気の型によっては中心部分の視野だけが欠損するタイプもあります。
③ 視力低下
病気が進行すると、かすみや、像の一部が見えない、ゆがむ、視力が落ちるなどの症状が生じてきます。これらの症状は、錐体細胞が障害されることで起こりますが、合併症である白内障や黄斑浮腫、網膜前膜、黄斑牽引症候群が原因の場合もあります。
④ まぶしさ、昼盲
さらに病気が進行すると、錐体細胞の障害が影響して、まぶしさが強くなります。また、明るい所よりも暗い所の方が見やすくなる「昼盲」を自覚することがあります。
⑤ その他の症状(霞視、光視)
視力障害が顕著になると、外界と関係なく色のついた光や点滅する光のようなものを感じたり、白く光るものを感じたりすることがあります。
検査
視力検査
細隙灯顕微鏡検査
眼の中の炎症の程度や、白内障等の合併症の有無を精査します。
眼底検査
目薬で瞳を開いて(散瞳)、眼底の状態を調べます。
光断層干渉計(OCT)
網膜細胞の変性の程度や病気の進行、合併症の有無等を精査します。眼底に弱い赤い光を当て、その反射を解析することで網膜の断層画像を得ることができる装置で検査します。当院には最新式のOCTがあり、以前は発見が難しかった細かい変化をとらえることができます。
視野検査
見える範囲を調べ、病気の程度や進行の有無を精査します。
機械でおこなうハンフリー視野検査と、検査員と共におこなうゴールドマン視野検査の2種類があります。
それぞれ、難病指定申請や身体障害者申請に必要な検査で、定期的に検査をおこないます。
網膜電図(ERG)
網膜に光が当たると電気的な信号が生じて、視神経を通して脳に伝わります。この電気信号を調べる検査です。網膜色素変性の初期では反応が小さくなり、中期以降は反応が見られなくなります。
病気の診断や難病指定申請に必要な検査です。
眼底自発蛍光
病気の進行の程度を精査します。眼底写真を撮影する際に、撮影機器の蛍光輝度を変えて、眼底の網膜色素上皮に存在するリポフスチンの自発蛍光を捉えます。リポフスチンの自発蛍光を捉えることで、網膜色素変性の病状を把握することができます。造影剤を使用する蛍光眼底検査とは異なり非侵襲的な検査です
蛍光眼底検査
蛍光色素を静脈に注射して眼底を検査します。網膜の萎縮が強い部分は強い蛍光がみられます。ショックなどの副作用が起こることがあるため、検査は、日本眼科学会の実施基準に従って注意深くおこなわれます。この検査が必要になった場合は、研究の同意書とは別に、検査について詳しく説明した後に同意をいだたいて行います。
治療
網膜色素変性の治療は難しく、現時点で明らかな効果を示す治癒法はまだありませんが、遺伝子治療や進行を抑制する薬などの治験が世界中で行われており、当院でも宮崎大学と協力しながら臨床研究を行っています。近い将来治療薬が登場することが期待されていますので、定期的な眼科医の診察と治療法の最新情報に基づいた管理が重要です。また、合併症の早期発見が大切なため定期的に検査を行い、白内障や網膜前膜には適切な時期に手術を考慮し、黄斑浮腫には点眼や内服による治療を行います。
ロービジョンケア
病気の進行に伴い視力障害が進行した場合、視機能に合わせた補助具を使用することで、生活の質を改善することができます。例えば、遮光眼鏡や暗所視支援眼鏡、拡大鏡などを紹介いたします。
医療費助成制度
網膜色素変性は医療費助成制度の適応疾患です。ご本人の申請があれば医師が難病患者診断書・網膜色素変性臨床調査個人表を記載します。基準を満たすと判断されれば医療費の助成を受けることができます。また、障害の程度によって身体障害者の認定を受けることもできます。さらに、網膜色素変性に対して初めて医師が診察した日(初診日)に国民年金や厚生年金保険に加入していた場合には、病気が進行し障害の程度が条件を満たしたときに障害年金を申請することも可能です。詳しくは担当医にご相談ください。