担当医からのメッセージ
強度近視とは、-6.0D(ジオプター)より強い近視のことをいいます。
強度近視は、眼球の後部が伸びて引き延ばされるため、若い年齢から、緑内障や網膜剥離、黄斑の病気などが起こりやすくなります。病気を発症すると病的近視といい、失明のリスクも高まります。定期的な検査をおこなうことで病気を早期発見し、進行を予防することが大切です。
また、小児期に近視の進行を予防することで、病的近視への進行を減らすことができると報告されています。近視が就学前に発症している場合や近視の程度が強い場合、将来病的近視になりやすいため、積極的な近視進行予防が推奨されます。
お気軽にご相談ください。
強度近視:概要
近視とは、眼が大きく後ろ向きに長いため、網膜に合うはずのピントが前方にずれて、遠くが見えにくい状態のことです。
近視のなかでも、眼球の長さ(眼軸長)が異常に伸びて近視が強くなった状態を、強度近視といいます。通常、成人の眼軸長は約24mmですが、眼軸長が26.5mm以上または屈折度数が-6.0D(ジオプター)を越える場合、強度近視に分類されます。
日本での強度近視人口は、40歳以上の成人の約5.0%を占め、近年増加しています。
強度近視は、本来球状である眼球の後部が薄くなり突出して引き延ばされるため、若い年齢から、視神経や網膜、黄斑部に病気が起こりやすくなります。
病気が発生すると「病的近視」といい、はっきり見えない、物がゆがんで見える、視野が欠けるなどの症状がでます。
病的近視は、緑内障や網膜剥離、黄斑の病気など、様々な合併症が起こりやすく、失明のリスクも高まります。定期的に眼の検査をすることで、合併症を早期発見し、病気の進行を予防することが大切です。
近視の原因は遺伝的要素が多いと言われていますが、近年は、環境による影響も大きいと考えられています。小児期に近視の進行を少しでも防ぐことで、病的近視への進行を減らすことが可能であるとも報告されています。
病的近視への進行予防
病的近視による合併症を防ぐためには、
① 近視の進行を抑制すること
② 定期検査で合併症を早期発見し、病気の進行を予防すること
が重要です。
① 近視の進行抑制治療について
- 屋外活動の勧め
1日2時間以上の屋外活動で日光を浴びることにより、近視進行が抑制されることが報告されています。 - 低濃度アトロピン点眼
0.01%などの低濃度アトロピン点眼をおこなうことで近視進行が抑制されることが報告されています。 - オルソケラトロジー
寝ている間に特殊なハードコンタクトレンズを装用することで近視進行が抑制されることが報告されています。 - 多焦点コンタクトレンズ
多焦点コンタクトレンズを装用することで近視進行が抑制されることが報告されています。
② 定期検査の内容
- 細隙灯検査
白内障などの精査をおこないます。 - 眼底検査
黄斑部疾患、網膜剥離、緑内障などの精査をおこないます。 - 光干渉断層計(OCT)
近視性牽引性黄斑症、近視性脈絡膜新生血管、近視性網脈絡膜萎縮などの精査をおこないます。 - 自発蛍光
近視性脈絡膜新生血管の発生に関係するブルッフ膜の断裂などが起こっていないか精査します。 - 視野
緑内障の精査をおこないます。
強度近視では、眼軸長が長くなることで視機能に大切な視神経や黄斑部、網膜周辺部が伸展し、様々な疾患のリスクが高まります。比較的若い方でも、網膜剥離、黄斑円孔、脈絡膜新生血管などの黄斑・網膜硝子体疾患をおこし易く、緑内障のリスクも高くなります。また、白内障も通常より若い年齢で発症する可能性があります。いずれも早期発見と治療が重要で、上記に示すような定期検査を受けることをおすすめします。
気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
強度近視による黄斑・網膜硝子体の疾患
近視性牽引性黄斑症
強度近視眼でみられる、眼軸長が伸びることにより網膜が引っ張られて発症する疾患群のことをいいます。
網膜前膜、黄斑円孔、網膜剥離、網膜分離症などがあります。
網膜前膜
網膜の上に薄い膜が貼る病気です。歪んで見えたり、視力が低下したりします。治療は、硝子体手術で膜をはがします。
黄斑円孔
網膜の中心部にあり、物を見るのに一番重要な部分を「黄斑」といいます。黄斑円孔とは、黄斑に小さい円孔が生じる病気です。発症すると、物が歪んで見え、視力が低下します。治療は、硝子体手術で孔をふさぎます。
網膜剥離
光を感じる細胞がならんでいる網膜が、眼球の内側からはがれる病気です。
初期には、小さなゴミのようなものが見える飛蚊症や視野の端の方がチカチカする光視症が現れます。進行すると、視野が欠け、視力が低下します。初期では、レーザーによる光凝固術で剥離の進行を予防できますが、進行した場合は手術で剥がれた網膜を元の位置にもどします。
網膜分離症
網膜が引っ張られて網膜内層が分離している状態です。視力は保たれていることも多いですが、歪んで見えたりします。治療は、硝子体手術を行い、分離した網膜を正常な形状にもどします。
近視性脈絡膜新生血管
網膜や脈絡膜に異常な血管が形成される病気で、網膜浮腫や出血、網膜剥離などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。強度近視の約5~10%に発症するといわれています。発症すると、歪んで見え、視力が低下します。治療は硝子体内注射をおこないます。
近視性網脈絡膜萎縮症
網膜や脈絡膜に異常な血管が形成され、その血管が退縮した後に生じる網膜や脈絡膜の萎縮のことをいいます。萎縮は広範囲に広がり、高度な視力低下をきたします。