黄斑外来・網膜硝子体外来

担当医からのメッセージ

黄斑外来・網膜硝子体専門外来では、黄斑や網膜硝子体に関連する各種疾患の診断、治療、そして予防に焦点を当てています。本邦において失明するリスクの高いと糖尿病網膜症は、ある程度進行するまで自覚症状がないため、手遅れにならないように定期的なモニタリングをおすすめしています。最近増加傾向にある加齢黄斑変性に対しては抗VEGF治療を行っており、常に最新の情報をキャッチアップして治療に当たっております。また網膜剥離や黄斑円孔など緊急で手術を要する疾患に対しても本院の宮田眼科病院での入院治療が可能です。当院では、専門性の高い医師とスタッフが最新の医療技術と機器を駆使して治療を行っております。また、患者様とコミュニケーションを大切にしており、治療についての理解を深めながら、最適な治療計画を検討してきます。安心して通える黄斑外来・網膜硝子体外来で、専門的な医療と丁寧なサポートを提供し、健やかな眼の未来を築いていくお手伝いが出来れば幸いです。

黄斑とは?

図1 左眼の眼底写真。矢印の部分が黄斑
図1 左眼の眼底写真。矢印の部分が黄斑

目の奥(眼底)にある網膜の中心の数mm程度の領域で、物を見る時の視線の中心にあたる部分です。ものを見る細胞が集中しており、「見る」ために必要不可欠な部分です。

黄斑におきる病気

網膜に体液や出血が溜まったり(滲出)、網膜が引っ張られて(牽引)変形したり穴が開いたり(円孔)、網膜の細胞が傷んで無くなる(萎縮)などがひとつあるいは複数重なっておきる様々な病気があります。

症状

黄斑に異常があると、視力低下や、物を見る時に中心が黒く見える(中心暗点)ゆがんで見える(変視症)、色の見え方が異常(色彩異常)などの症状が起きます。違う病気でも同じ症状が出ることがあり、同じ病気なのに少し異なった症状を感じることがありますので、検査での確認が重要です。特に片目ずつ確認しないと自分では気づかないことが多いので注意が必要です。

変視症
変視症
中心暗点
中心暗点
色彩異常
色彩異常

主な病気とその診断

①加齢黄斑変性・滲出型

加齢により黄斑が障害される病気で、高齢者、男性、喫煙者に多く見られます。日本人の加齢黄斑変性のほとんどは滲出型で、異常な血管が脈絡膜にでき、網膜の方に伸びて出血したり血液成分がもれたりすることで起こります。悪化のスピードが速い特徴があり、進行すると中心が見えなくなり、視力が低下します。診断は眼底検査、OCT、OCT-Aなどで新生血管を確認することが中心となります。
治療は、異常な血管が増えるのを抑える抗VEGF薬を硝子体に注射する治療法と、光に反応する薬を点滴後、弱いレーザーを照射して異常な血管を消失させる光線力学的療法、レーザー光凝固術がありますが、病気自体が無くなることはないため、継続した経過観察と時機を逸しない治療が大切です。

図2-a 正常眼の黄斑OCT(光干渉断層撮影)
図2-a 正常眼の黄斑OCT(光干渉断層撮影)
図2-b 加齢黄斑変性の黄斑OCT
図2-b 加齢黄斑変性の黄斑OCT

②加齢黄斑変性・萎縮型

加齢黄斑変性のうち、新生血管を伴わずに網膜・脈絡膜が徐々に萎縮するタイプです。診断には眼底検査、OCT、眼底自発蛍光などを行います。上記の滲出型加齢黄斑変性に萎縮が伴うこともあります。ルテインなど抗酸化物質摂取がサプリメントも含めて推奨されますが、残念ながら現時点では確実なエビデンスのある治療法はありません。

③中心性漿液性脈絡網膜症

黄斑の網膜に網膜の奥にある脈絡膜血管から出た滲出液が溜まる病気です。自然に良くなることも多いですが、繰り返す場合もあります。慢性化すると網膜が萎縮するため治療の検討が必要になります。診断には眼底検査、OCT、眼底自発蛍光検査などに加えて、光干渉断層血管撮影(OCT-A)などを用いて新生血管を確認します。治療が必要な場合は、原則として造影検査を実施して、状態を詳しく確認した上で、レーザー治療などを検討します。

  • 図3 中心性漿液性脈絡網膜症の黄斑OCT
  • 図3 中心性漿液性脈絡網膜症の黄斑OCT 2

図3 中心性漿液性脈絡網膜症の黄斑OCT

④網膜静脈閉塞症

網膜の静脈が詰まり、血流が不足して見え方が障害されます。主な原因は動脈硬化です。黄斑に血液や滲出液がたまり、腫れる(浮腫)と見えづらくなります。診断には眼底検査、OCT、OCT-A、必要時に造影検査などを行います。治療は状況により抗VEGF治療やレーザー治療などを行います。

  • 図4-a 網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真
    図4-a 網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真
  • 図4-b 網膜静脈分枝閉塞症による黄斑部浮腫のOCT
    図4-b 網膜静脈分枝閉塞症による黄斑部浮腫のOCT

⑤黄斑上膜または黄斑前膜、黄斑円孔

網膜に付着した膜に、黄斑の網膜が引っ張られ、変形したり穴が開いたりします。主に眼底検査とOCT検査で診断し、程度に応じて硝子体手術を行います。

図5 黄斑上膜(黄斑前膜)のOCT。網膜の表面に膜が張っている(矢印)
図5 黄斑上膜(黄斑前膜)のOCT。網膜の表面に膜が張っている(矢印)
  • 図6-a 黄斑円孔(矢印)の眼底写真
    図6-a 黄斑円孔(矢印)の眼底写真
  • 図6-b 同部位(矢印)のOCT
    図6-b 同部位(矢印)のOCT

⑥強度近視に関連した黄斑の病気

強い近視では、通常よりも若年齢から黄斑の病気が起こる傾向があります。病気としては牽引によるもの(近視性牽引性黄斑症)、新生血管によるもの(病的近視における脈絡膜新生血管)、萎縮(近視性網脈絡膜萎縮)などです。中心部分の見え方に異常を感じたら、検査を受けることが勧められます。

  • 図7-a 近視による脈絡膜新生血管の眼底写真(矢印)
    図7-a 近視による脈絡膜新生血管の眼底写真(矢印)
  • 図7-b 同部位のOCT
    図7-b 同部位のOCT

⑦糖尿病網膜症

近年、患者数の増加が著しい病気の一つに糖尿病があります。糖尿病網膜症は糖尿病の3大合併症の一つです。
糖尿病網膜症は、糖尿病と診断されたときから定期的な眼科の検査を受け、病気の初期から内科と眼科の適切な治療を続けていれば、失明は確実に防げます。しかし、実際には糖尿病を放置している人が少なくなく、糖尿病網膜症はいまだに日本の成人の失明原因の第三位です。

眼の奥にある網膜は、瞳から入った光の明暗や色を感知する役割で、ものを見るために非常に重要な組織です。網膜には細かい血管が全体に張りめぐらされていて、血糖値が高い状態が長期間続くと血管に負担がかかり、血液の流れが悪くなってきます。その結果、網膜に障害が起こります。
糖尿病の患者さんの全員に網膜症が出るわけではありません。また、網膜症が出ても早期の段階(図8)では視力低下などの症状がありません。そのため、症状が出る前から定期的に眼科に通院し、眼底検査を受けることが重要になってきます。

網膜症がある程度進行してくると、黄斑浮腫(図9)が出てくることがあり、物が歪んで見えたり、視力が低下したりしてきます。さらに進行すると、悪くなった網膜の血液循環を補おうとして網膜に新しい血管(新生血管)が出てきてしまいます。この血管はとてももろく出血しやすいため、破れて網膜の表面や硝子体出血をおこすと、視力に大きな影響を及ぼします。さらに進行すると、薄い膜状の増殖膜が形成され、網膜を牽引し網膜剥離が発生します。症状として、著明な視力低下や飛蚊症がでます。それらの状況を放置しますと、網膜が全部はがれてしまったり、眼圧が急激に上昇したりして失明に至ることもあります。

糖尿病網膜症治療の大原則は、血糖コントロールです。血糖コントロールを良好に保てば網膜症の発症や進行する確率が低くなりますが、現状の網膜症の状況は過去の血糖コントロール状況が反映されているため、血糖コントロールをよくすることで一度視力低下した状態が良くなるということはありません。黄斑浮腫に対しては抗VEGF薬治療やレーザー治療、状態に応じて硝子体手術が必要になることがあります。

  • この段階では視力低下はありません
    図8 単純糖尿病網膜症
    図8 単純糖尿病網膜症
  • 図9 黄斑浮腫のOCT像
    図9 黄斑浮腫のOCT像
無治療ですと失明の危険があります
図10 増殖糖尿病網膜症
図10 増殖糖尿病網膜症

治療方法

抗VEGF療法(硝子体注射)

抗VEGF療法(硝子体注射)

黄斑部のむくみには、体内のVEGF(血管内皮増殖因子)という物質が関与していることがわかっています。VEGFは、通常は漏れ出ることがない血液成分を血管から漏れ出やすくさせたり、本来存在しない異常な新生血管を発生させたりします。抗VEGF薬を目の中に注射して、このVEGFの働きを抑えます。この治療は1回では終了するものでなく、病状によって治療のスケジュールを決定します。

注射前の網膜断面図
注射前の網膜断面図
注射後の網膜断面図
注射後の網膜断面図

抗VEGF薬の種類

ルセンティスⓇ、アイリーアⓇ、ベオビュⓇ、バビースモⓇ

方法
  1. 瞳を広げるための薬を点眼したあと、点眼麻酔をします。
  2. 目の周りを消毒します。
  3. 抗VEGF薬を硝子体へ注射します。
副作用

まれですが、眼内炎という重大な感染症の報告があります。予防のため、処方された点眼液をきちんと点眼し、目を清潔に保ってください。その他、結膜下出血、眼圧上昇、眼痛、視力低下などをおこすことがあります。

網膜光凝固術(レーザー光凝固術)

特定波長のレーザー光線を網膜に当て、網膜を焼き固めて、病気の進行を抑えます。網膜を元に戻す治療ではありませんが、悪化させないために重要な治療で、通常、外来で行います。治療後に比較的早く日常生活に戻ることができますが、状態に応じて、複数回照射が必要です。

レーザー光凝固術
レーザー光凝固術
網膜断面図
網膜断面図
方法
  1. 瞳を広げるための薬を点眼したあと、点眼麻酔をします。
  2. レーザー光を異常な組織や血管に照射します。レーザーの照射数や照射範囲は網膜症の進行具合によって異なります。
  3. しばらく安静にします。
合併症

照射数より鈍痛がおこることがあります。また、眼圧上昇、視力の変化、黄斑部浮腫が生じることがありますがいずれも一過性です。まれに瘢痕形成、網膜損傷など。

光線力学的療法(PDT) *都城本院で実施します

加齢黄斑変性では、黄斑部に新たに新生血管が生じることがあります。PDTは、周りの正常な組織に影響を与えずに、この新生血管だけを閉塞、消退させる治療法です。
治療の前に蛍光眼底造影検査を行い、病変の大きさを確認してレーザーの照射範囲を決定します。治療には専用のレーザー装置が必要であり、眼科PDTの認定医が行います。3ヶ月ごとに蛍光眼底造影検査を行い、再治療の必要があればくり返し行います。

方法

  1. 瞳を広げるための散瞳薬を点眼します。
  2. 新生血管に集まる性質をもち、特殊な波長のレーザー光に反応するビスダイン®という薬剤を腕の血管から10分かけて点滴します。
  3. 点眼麻酔の後、黒目の上にコンタクトレンズをのせて、レーザーを新生血管のある病変部に照射します。

合併症

48時間は光過敏症となるため、目や皮膚などを直射日光や強い室内光に当てないよう注意する必要があります。その他、変視症、霧視、視力低下、頭痛などがあります。

網膜硝子体手術 *都城本院で実施します

網膜硝子体手術

目の奥(後眼部)は目の形を保っている透明なゼリー状の物質(硝子体)で満たされています。硝子体手術では、この硝子体を切除します。

方法

  1. 目に注射で麻酔をします。
  2. 白目に3か所の小さな穴を開けます。
  3. 目の中を照らす照明や内視鏡、硝子体カッターを入れます。
  4. 目の形を保つために灌流液を眼内に入れながら、硝子体カッターで硝子体を細かく切り、出血した血液を吸引したり、剥がれた網膜を元にもどしたりします。
  5. 切除した硝子体の代わりに灌流液を入れ、手術を終了します。
    状態によっては、灌流液の代わりに、空気やガス、シリコンオイルなどを入れることがあります。

合併症

目の感染症、網膜剥離、角膜障害、緑内障、黄斑浮腫などがあります。

検査

「DRI OCT Triton」は短時間で高画質の網膜断層撮影ができる検査装置です。さらに、光干渉断層血管撮影(通称OCTアンギオグラフィ)という最新の機能を搭載しています。OCTアンギオグラフィでは網膜やその深部の脈絡膜の血流、微小血管の構造などを観察することができます。

  • OCT、OCT-A、眼底写真:DRI OCT Triton
  • OCT、OCT-A、眼底写真:DRI OCT Triton

OCT、OCT-A、眼底写真:DRI OCT Triton

「Daytona Next」は、非接触で、中心部から周辺部まで、眼底の約80%の領域を画角200度でカバーして撮影できます。

  • 広角眼底写真、自発蛍光:Daytona Next
  • 広角眼底写真、自発蛍光:Daytona Next

広角眼底写真、自発蛍光:Daytona Next

網膜を光で刺激して、網膜の機能の変化を確認する検査です。両眼同時に検査でき、侵襲が少なく、衛生的な検査です。

  • 皮膚電極ERG:HE-2000

網膜電位計 皮膚電極ERG:HE-2000