担当医師からのメッセージ
角膜(黒目)はその直径は10㎜程度、厚みは0.5㎜程度であり、とても小さな組織ですが、物を見るためにとても重要な役割を担っています。宮田眼科 本院では定期的に角膜専門の医師が診察を行っており、患者さんの目の状態を的確に把握し、適切な医療を提供しています。
角膜(黒目)について
目の表面には角膜(黒目)・結膜(白目)、涙腺・副涙腺(涙を作るところ)、マイボーム腺(涙に油分を供給するところ)、涙の層などがあります。角膜は直径が10mm程度、厚み0.5mm程度の透明な組織で、上皮・ボーマン膜・実質・デスメ膜・内皮の5層構造をしており(右図)、物を見るためのレンズとしての役割を担っています。また、痛みを伝える神経が高密度に張り巡らされており、痛みに対して鋭敏な組織でもあります。そのため角膜に障害があると、視力障害や目の痛みが生じます。角膜の障害は、傷、感染、炎症、乾燥、外傷、遺伝性疾患などにより起こり、ぼやけて見える、光がまぶしい、異物感、充血などの症状が現れます。治療は原因によって異なり、点眼薬での治療や抗生剤などの内服や点滴、場合によっては角膜移植などの手術が行われます。早期発見と適切な治療が重要となるため、目に異常を感じたら、眼科医にご相談下さい。
角膜の病気について
角膜は小さな組織ですが、物を見る際に重要な役割を担っています。角膜の病気には様々なものがありますが、ここでは代表的な疾患についてご紹介します。
ドライアイ
角膜・結膜の表面には上皮細胞という組織があり、涙の層とあわせて眼の表面を正常に保つ役割を果たしています。涙の層には油の層と水の層がありますが、ドライアイという病気は、涙の量が減ったり、涙の油の層と水の層のバランスが崩れたりすることで、目の表面の状態が悪化し様々な不快な症状を起こしている状態です。原因としては、加齢やパソコン・スマートフォンなどの画面を長時間見る、空気の乾燥、コンタクトレンズの装用やシェーグレン症候群(涙の分泌量が低下する病気)などがあります。
症状
目の違和感、異物感、乾燥感といった症状を生じます。重症例では見え方に影響がある場合があります。目が痛い、目が乾くといった症状以外でも以下に示すような自覚症状がドライアイでは生じます。
- a)眼が疲れる
- b)眼がゴロゴロ、ショボショボする
- c)ものがかすんでみえる
- d)光がまぶしい
- e)目やにが出る
- f)目が赤い
- g)風が吹くと不快感がある
- h)乾燥している場所で不快感がある
- i)エアコンがある場所で不快感がある
治療
主に、点眼薬で治療します。点眼薬には、涙液と同じ電解質成分を補給する人工涙液、保湿作用を有するヒアルロン酸ナトリウム点眼液、涙液分泌を促進するレバミピド点眼液、ジクアホソルナトリウム点眼液があり、患者の状態に応じた点眼薬を使用します。点眼だけで改善しない人にはシリコン製の涙点プラグを涙点に入れて涙をためる治療を行います。
角膜炎・角膜潰瘍
角膜炎は、感染やアレルギー反応、ドライアイ、異物、外傷などが原因で角膜表面に炎症が起こっている状態です。角膜潰瘍は、病変が角膜表面から角膜内部に進行した状態で、より重症になると角膜に孔があくことがあります。原因としては、細菌や真菌(カビ)、アメーバ、ヘルペスなどの微生物による感染性角膜炎が多いのですが、他にも化学物質、異物、外傷、手術などによる角膜損傷、アレルギーや遺伝による病気で生じることもあります。
症状
目の痛みや異物感、白目の充血などの症状が現れます。これ以外にも目やにが増える、ぼやけて見える、光をまぶしく感じるなどの症状が出ることもあります。これらの症状は、角膜炎や角膜潰瘍によって引き起こされるもので、症状の程度や具体的な状態は患者さんによって異なります。
治療
角膜炎や角膜潰瘍の治療方法は、原因や重症度によって異なりますが、感染が原因の場合は抗生剤などの点眼や内服や点滴を行います。炎症が極端に強い場合は、炎症を抑える点眼薬が使用されることがあります。これは症状の軽減や治癒を促進するために使われます。重症の場合には角膜に濁りが残ることもあり(角膜混濁)、最終的に角膜移植などの手術が行われることがあります。
治療法は症状や原因に応じて異なりますが、眼科医の指導のもとで正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。
円錐角膜
円錐角膜は思春期(10代半ば)に発症することが多い病気であり、角膜の形が徐々に変形し視力低下を引き起こす病気です。アトピーの方に多く見られる病気であり、目を強く擦ることが発症に関係していると考えられていますが、アトピーの方以外にも発症することもありその原因については完全には解明されていません。
症状
多くの患者さんではメガネをかけても見えづらいなど視力低下という症状が生じます。また片目で見たときに物がダブって見えるといった症状も起こることがあります。
治療
治療法は症状の程度や進行度によって異なりますが、最初はハードコンタクトレンズによる矯正を行います。角膜の変形が進行する場合は、角膜クロスリンキングという治療を行うことがあります。角膜クロスリンキングはビタミン剤の点眼+紫外線を照射する治療法で円錐角膜の進行を抑制することが期待できます。極端に進行した場合は角膜移植といった黒目を取り替える手術が必要になることもあるため、症状がある方では早期に発見し治療を開始することが重要な病気です。
水疱性角膜症
水疱性角膜症は、角膜実質から水を汲みだすポンプ機能をもつ角膜内皮が障害されて角膜の厚みが増し、視力が低下する病気です。また放置しておくとかなり強い痛みを生じるため日常生活に支障を来す場合もあります。原因には様々なものがありますが、眼科の手術や遺伝性疾患、感染症などがあります。
症状
朝起きた時、かすんで見えるが午後になると見え方が良くなるという症状で受診することが多い病気です。この症状はその後進行し、一日中かすんで見えるという状態になり、最終的には視力低下や異物感、強い痛みを感じるようになります。
治療法
重症度によって異なりますが、症状が軽い場合には点眼治療を行いますが、進行した場合には角膜移植手術が行われることがあります。
翼状片・再発翼状片
主に鼻側の結膜が角膜に入ってくる病態です。手術で切除しても再発しやすい特徴を持っています。
翼状片は、発生すると鼻側(内側)から角膜に向かって結膜(白目)の組織が入ってくる病気です。主な原因の一つには、紫外線(特に強い日差しや長期間の紫外線暴露)が関連しているとされています。そのほかにも、環境因子、遺伝、乾燥、風なども翼状片の発生に影響を与える要因とされています。
症状・治療
小さな翼状片では見え方にはほとんど影響がありません。ただし、翼状片が進行し角膜を覆い始めると、視力の低下やものがダブって見えるなどの症状を引き起こすことがあります。小さな場合は定期検査で経過観察を行いますが、進行した場合には手術を検討します。
宮田眼科 本院に設置している機器について
角膜の状態をより正しく捉えるための最新の機器を揃え検査を行っています。
前眼部光干渉断層計 CASIA2
測定光に赤外線を用い、角膜が濁っている状態でも、その断層像を得ることができます。角膜前後面の屈折、角膜の厚み、角膜の混濁の程度など多くの項目を一度の測定で計測することができます。角膜潰瘍における角膜の厚みの変化、円錐角膜の進行度、水疱性角膜症における角膜の浮腫の程度、翼状片における角膜の歪みの程度など様々な疾患に用いることができます。
スペキュラーマイクロスコープ
角膜内皮の形態を撮影し、密度や大きさ、形のばらつきを測定します。角膜内皮細胞はヒトの生体内では増えることのない細胞で、年齢とともに減少し、コンタクトレンズ装用や白内障手術などの内眼手術でも減少することが知られています。スペキュラーマイクロスコープは鏡面反射の原理を用いて角膜内皮細胞の形を撮影し角膜内皮細胞の状態に関する検査を行います
角膜および結膜の手術について
宮田眼科 本院では円錐角膜に対する角膜クロスリンキング、また翼状片の手術を日帰りで行っています。水疱性角膜症や角膜混濁などに対する角膜移植は宮田眼科病院(都城市)で行っています。
角膜クロスリンキング
角膜クロスリンキングは、リボフラビンというビタミンB2を点眼して、365nmの紫外線を角膜に照射する治療法です。この治療により、角膜組織にフリーラジカルという物質が発生し、角膜組織のコラーゲン同士をくっつけ(コラーゲン架橋)、角膜を強く硬くします。角膜を硬くすることで変形の進行を抑えることができます。この治療法は欧米を中心に世界中で円錐角膜の標準治療として行われています。
手術は局所麻酔で行い、30分ほどで終了します。この手術は比較的安全な手術方法で、合併症はほとんど起こりませんが、術後は角膜の表面が傷んでいるため、2~3日間は痛みがあり、見え方が元に戻るまで1~2週間程度かかります。まれに以下のような合併症が生じることがあります。
- ヘイズ:角膜にうすい混濁が生じることがあります。多くの場合は、ステロイド点眼液で改善します。
- 感染症:まれに術後感染症を起こす可能性があります。通常、抗菌薬の点眼や点滴にて治療しますが、重症例では入院が必要になることがあります。
翼状片手術
翼状片手術は角膜に侵入した翼状片を切除し、結膜を縫合します。手術は局所麻酔で行われ、30分程度で終了します。安全性の高い手術であり、術中の合併症はほとんどありませんが、術後しばらくは白目の部分が出血のため赤くなりますが、徐々に改善します。また以下の症状が起きることがあります。
- 再発:手術後に翼状片が再発することがあります。再発率は5%程度ですが、若い方では再発する可能性が高いことが知られています。再発を予防するため、点眼薬を術後1年程度は使用することが重要です。
- 疼痛:切除するため痛みが2-3日程度続きます。痛みを軽くするため、眼軟膏やソフトコンタクトレンズを使用することがあります。
- 視力の変化:翼状片手術後は角膜の形が変化するため、見え方が変わる場合があります。矯正視力が低下することはほとんどありませんが、裸眼視力(メガネをかけない視力)については低下する場合もあります。
まれに術後に感染症を起こす可能性もあるため、手術後は目を触らないようにご注意ください。また痛みや視力低下を感じた場合には早めに医師にご相談ください。
角膜移植について
角膜移植は直径10mm程度の角膜のうち中央部の7-8mmを取り替える手術で、都城の本院で行っています。健康なドナーの角膜を患者さんの眼に移植することで視力を回復させることを目的としています。角膜移植にはさまざまな種類と方法があります。
- 全層角膜移植術(PKP)
患者の角膜全層を取り除き、ドナーの角膜を縫合して移植する手術です。角膜全層の異常がある場合に使用されます。 - 深層層状角膜移植術(DALK)
患者の角膜前方の異常な層を取り除き、残りの健康な角膜組織の上にドナーの前方層のみを移植する手術です。角膜内部の異常がある場合に使用されます。 - 角膜内皮移植術(DSAEK)
内皮が障害された角膜にドナーの内皮と少量の実質を移植する手術です。内皮層に問題がある疾患に用いられます。
これらの手術は、患者の状態と病態に応じて眼科医が決定します。
また、手術後のリハビリテーションや定期的なフォローアップが重要です。